IMDb 7.1/10 | in movies 7.5/10 | 123min | 2016年10月29日(土)日本公開
あらすじ
実話です。2005年、ウィル・スミスは実在の医師で検視官のベネット・オマル役。アメリカンフットボールのNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)を引退した花形選手の変死解剖に携わり、頭部タックルが原因である脳の病気CTEを発見、論文を発表。熱狂的、国民的スポーツ故、絶大な権力、絶大な経済効果を持つNFLはそれを全否定し、ベネット・オマル医師とその周りに圧力をかけていくが、、、
見どころとテーマ
ただ真実を伝えるだけの事が何故それほどまでに難しいのか。真実を隠蔽してまで守るべきものとは?
本作が凄いのは、2016年現在でもまだ進行中の事件だということ。根本的な解決はしておらず、NFLに対して改めてこの映画を通して問題点を叩き付けた状況になっているということです。
純粋なスポーツは、その華々しさと興奮を人々にもたらす事で巨大なビジネスとなります。ビジネスに目が眩み、本来の目的を見失った時、犠牲者になるのは末端の選手たちとその家族なのです。アメフトに限らず、富の集中をもたらすアメリカン・ビジネスの典型ともいえるでしょう。
映画冒頭、NFLを引退したマイクの演説にCTEに悩まされる選手達の現実と想いが全て語られています。「素晴らしい栄光との引き換えに、犠牲、恐怖、痛みが伴ない、それは現在でも続いている。成すべき事はゲームを終わらせる事で、終わらせる事でのみ勝利を得られる。」と。ゲームを終わらせるとは、アメリカン・フットボールを生業と選んだ自分の人生自体を終わらせる事です。死をもってしか悪夢を終わらせる事ができない痛々しさは、花形の現役選手時代の華々しさの代償としてはあまりにも重く辛すぎます。
初心に戻ろう。真実を語ろう。シンプルで実直なベネット・オマル医師の存在が、この映画、この事件の救いです。彼がくじけそうになったとき、ナイジェリアからアメリカに夢を抱いてやってきた頃の初心を思い出して前に進んだエピソードを絡めていく脚本はなかなか秀逸です。
CTEとは
コンカッション=脳震盪
我々の脳は頭蓋骨の中の液体に浮いている状態なので、外部からの激しい衝撃で頭蓋骨に衝突する場合もあります。一時的な脳震盪となり症状が回復したと思われていても、フットボールやボクシング、アイスホッケーなどで度重なる衝突を繰り返すと、慢性外傷性脳症(CTE:chronic traumatic encephalopathy)に至る場合があるのです。
キツツキや山羊など、いわゆる頭突きをする事が日常の動物の脳内には、進化の過程でショックアブソーバー(脳を守るための衝撃吸収剤)が発達していますが。人間にはそんなものは付いていません。頭突きは、人間の種の保存とはたぶん無関係であるという意味でしょう。人間の脳への衝撃は通常60Gが限界。フットボールでの頭部同士のタックルでは100Gに及びますが、マイクは引退までの間におよそ70000回以上のタックルを受けた計算になるとのことです。素人が考えても脳みそがなんだか変になってしまう事を想像できます。
今、現実に起きていること
2011年、5000人近い元NFL選手たちがリーグを相手取り、事実隠蔽に対する集団訴訟を起こしました。そして2015年に和解成立。
また、ベネッ ト・オマル医師が正式にアメリカ国民となったのも2015年。
本映画のアメリカ公開は2015年12月です。
この映画の上映で多くの人々が関心を集め、オマル医師、選手やその家族たちに勝利がもたらされました。
- 本映画は、2009年米GQ誌にジャンヌ・マリー・ラスカスが寄稿した記事「Game Brain」(リンク先は英語オリジナル記事)の映画化です。
- 2013年以降、日本のアメフト・ニュースのサイトではCTEの関連記事が豊富。映画とリンクするリアルな内容です。
- 2015年9月20日のSputnikの記事。
レビュー
ベネット・オマル医師の最初の検死のシーンがいい。敬意を持って時間をかけて自分の仕事に接する態度。短い時間ですが、このシーンがあるとないとではこの映画のイメージが大きく変わります。通常、検死では日曜大工でみられるような電動かつ破壊的なイメージの道具(電動ドリル、電動カッター、トンカチ等)を使用しますが、彼は繊細とも言える大小さまざなメスやピンセットが主体。几帳面に道具を並べ、しかも毎回使用後にそれらの道具を廃棄し(道徳的観点から再度別な検死に使用する事を良しとなかった)、屍体に話しかけ、ヘッドホンをかけ、音楽を聴きながら検視をする。
ウィル・スミスは都会的で洗練された役柄が多い印象ですが、本作ではその逆です。アフリカのナイジェリアのチーフの息子として、なまりのある英語、心神深く頑なな性格を演じます。「7つの贈り物」の時の顔に近いでしょう。ハラハラドキドキするサスペンスではなく、静かで熱い情熱が伝わる作品です。
更に、微に入り細に入り
- 上記レビューにも書いた、検死のシーンでウィル・スミス扮するベネット・オマル医師が聴いているのは、テディー・ペンダーグラスの「Love T.K.O.」(T.K.O.はテクニカル・ノックアウトの略)。
- ベネット・オマル医師の乗る車は当時1000万円ほどのメルセデス・ベンツSクラス。決してきらびやかではなく、どちらかというと地味で実直な彼がこの車を乗る理由は、純粋に最善の物を求めた結果でしょうか。(メルセデス・ベンツSクラスのコンセプトは、「最善か無か」)。冷蔵庫の中にはほとんど何もない質素な暮らしなのに対して、上質なカフスに刺繍のあるワイシャツを着るなど、特定のものへのこだわり、全体のアンバランスさにも注目したいところです。
- 上司のシリルがベネット・オマル医師にプレゼントしたシャンパンは「ペリエ・ジュエ・グランド・ブリュット(ノン ヴィンテージ)」。ペリエ・ジュエは日本ではベル・エポック以外はあまりメジャーではありませんが、モエ・シャンドンよりもちょっと高価なこだわりシャンパンです。
- NFLの選手とその家族はこの映画を映画館で無料鑑賞できるとのこと。
- リドリー・スコットのスコットフリー・プロダクションズのプロデュース作品。
キャスティング・ノート
- 監督はピーター・ランデスマン。監督としては「パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間」に次ぐまだ2作目です。
- ベネット・オマル医師とともに真実を語る側になるジュリアン医師役のアレック・ボールドウィンははまり役でした。「ブルージャスミン」や「アリスのままで」の印象そのまま。豪邸の裏庭で散歩する姿が似合う人です。
- ヒロイン役のググ・バサ=ローはテレビ・ドラマへの出演が多い。気丈で品のある役柄が合っていました。本映画は彼女の代表作になるでしょう。
- NFLを引退したマイク・ウェブスター役には「ハート・ロッカー」にも出ていましたが、「グリーンマイル」や「コンタクト」の印象が強いデヴィッド・モース。痛み止めのために自らスタンガンを当てるシーンが痛々しい。
会話ピックアップ
- God is No.1(人差し指と中指の2本立てながら)。Football is No.2(人差し指を1本立てながら) → 「建前では信仰の方がもちろん大切だが、本音ではアメフトの方がもっと大切。」
- Need is not weak. Need is need... You have to be the best version of yourself. If you don't know what that is you pick something and fake it → 「求める事は弱さではない。必要だから求めるだけだ...偽物にだまされてはダメだ。君はもっとも輝く本物の君でなければいけない。」
- Tell the truth! → 「真実を語れ!」
※日本語時幕とは一致しない場合があります。
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