IMDb 7.5/10 | IN MOVIES 6.7/10 | 111min | 2016年7月日本公開
この映画のタイプは一言で言うと、NHK連ドラです。
映画ブルックリンは1950年代、アイルランドからニューヨーク・ブルックリンに移住したエイリシュ(シアーシャ・ローナン)の恋愛、故郷、家族の物語。
主人公エイリシュ(シアーシャ・ローナン)について
エイリシュが故郷アイルランドから旅たつ先はニユーヨーク・ブルックリン。初めての土地、最初はなにかと風当たりが強いのでホームシックに涙することもあります。しかし逆境でこそ持ち前の実直さが彼女を迅速に成長させます。元々頭もいいし、しっかり者。一見、田舎者でどんくさくても、あか抜けて洗練されていくほど自身に満ちた美しい女性に変身していきます。しかも、父親を亡くし、母と姉の3人で田舎の閉鎖的な環境に暮らしていたため、人生経験が乏しかっただけの彼女なら、ブルックリンでの開花は尚更目を見張るものがあります。
そして恋愛。エイリシュは男女の関係においては、いわゆる嚊天下(かかあでんか)タイプ。配管工のイタリア人トニーと最初に出会ったときから彼女はそんな表情です。トニーは彼女よりも背が低く地味、そして正直で優しい、貧しいイタリア移民の男の子。バスの中で彼が家族に会って欲しいと切り出すとき「ごちゃごちゃ言ってないではっきりして!」と一撃するのが痛快です。
エイリシュはトニーと結婚したのにも関わらず、故郷で別の男性(「エクス・マキナ」、「レヴェナント:蘇えりし者」にも出演しているドーナル・グリーソンです。)と予期せぬ恋におちてしまいます。しかも友人の結婚式に出席をして、自分が結婚していた事を改めて思い出す始末です。彼女は軽薄でしょうか?軽薄だと思います。しかし、それは自分に正直に生きる事ができる女性の、女性らしさの魅力でもあり、未熟故の隙です。もちろん、最終的なけじめと覚悟は必要ですが、今、まさに人生経験を真剣に学んでいる最中の彼女を責めるべきタイミングではありません。ともあれ不倫についての映画ではないし、最終的にどちらの男性を選ぶかは(愛の深さまでは描かれていないので)あまり重要ではありません。語られるべきことは、、、
語られるべきこと
語られるべきなのは、恋愛の行方ではなく、エイリシュの成長の証しとして、もう一度海を渡ってアメリカに戻る事。それこそが映画としての、ドラマとしての面白さです。
日本語字幕で翻訳されるかは不明ですが、アメリカに再入国する際のイミグレーションにて、エイリシュはアメリカ国民の列に並びます。つまりアメリカ国籍だったトニーと結婚をして彼女はアメリカ国民となっていたのです。夢を抱きアメリカに渡った異国の人々はだれでもグリーン・カードが欲しかった事でしょう。彼女はアメリカ国民としてアメリカに戻ったのです。
そんな訳で、ニューヨークのトンネルや橋や道路を作ったアイルランドからの出稼ぎ労働者(労働ビザでアメリカに滞在)がホームレス同然の姿で集まるクリスマスの慈善パーティのシーンなどもこの映画では感慨深いシーンとなります。
ラストシーンはこの映画の宣伝素材にも使われているので、あーここでこうなるのかぁ。と納得。夕日に照らされた暖かい風景がほのぼのして美しい。終わりよければ全て良し。
この映画は「キャロル」と同時代を描いており、主人公が高級百貨店勤務であるところも同じですので、見比べるのも面白いでしょう。
シアーシャ・ローナン
シアーシャ・ローナン自身、ニューヨーク・ブロンクスで生まれ、アイルランド人の両親の元、アイルランドで育ったので実際の彼女の人生ともリンクする面が多い内容です。つまり、映画の中でのアイリッシュ・アクセントはネイティヴ。(エイリシュの正しい発音は「Ay-lish」どちらかといと「アイリッシュ」で、アイルランド人を彷彿させる名称になっています。)
ファッション
1950年代の女性フアッションは現代でも大変魅力的です。スタイリッシュというよりもかわいい。シアーシャ・ローナンが最初に渡米する前のアイルランドでの服装と、帰国後の服装の違いが愕然とするほど異なるのも見どころです。
特にグリーンはこの映画のキー・カラー。言うまでもなくグリーンはアイリッシュ・カラーです。グリーンのセーター、グリーンのコート、グリーンのワンピース、グリーンの水着、、、。映画のテイストと意味は異なりますが「大いなる遺産」のグィネス・パルトロウもグリーンでしたね。
食事の風景
下宿のみんなが集まるいつもの夕食の風景。料理の内容までは確認できませんでしたが、いつもワンプレートのアイリッシュ・フード。意地悪だけど、心の底からという訳ではなく、おてんばのまま適齢期が過ぎようとしているお姉さまたちや、新たにアイルランドから来た新入りなどなど。家族的な同居人達が楽しい雰囲気で、連ドラ感を煽ります。
トニーの家族とのディナーではマンマが作ったトマトソースのパスタ(事前にソース無しでパスタを食べる練習風景も見逃せません)。大皿がテーブルの真中にドーンと置かれて、各自そこから好きなだけ取るスタイル。シンプルだけど、きっと受け継がれてきたファミリーの味がする事でしょう。赤ワインがタンブラーに注がれる日常のカジュアルさも素敵です。このシーンを見ると、イタリア式にパスタを食す際は、フォークだけでも、スプーン+フォークでもどちらでもいいことがわかります。(スプーン+フォークで食べている人もいれば、フォークだけの人もいて、それぞれが好きなように食べています。)
ところで、この一連のシーン、よく見るとパスタの後に前菜が出されています!おそらく編集で順番が逆になったのでしょう。
原作にはあるが、映画では描かれていない事。
エイリシュと故郷アイルランドでの予期せぬ恋、ジムとの関係は映画ではプラトニックに描かれていますが、原作では肉体関係まで発展しています。実はエイリシュはこのためにトニーからの手紙を開ける事ができなかったのです。
会話ピック・アップ
トニー:「Do you like Italian food?」イタリアンは好きかい?
エイリシュ:「I don't know. I've never eaten it.」わからないわ。食べた事ないもの。
トニー:「It's the best food in the world」イタリアンは世界で一番美味い料理だよ。
エイリシュ:「Well, why would I don't like it?」じゃ、(なんで好きかどうか聞いたりするの?)私だって好きになるに決まっているじゃない?
※エイリシュ、かわいくない!でも天真爛漫さがよく出ている会話です。
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