映画 「デッドプール」 / Deadpool / 熊のテッドとの共通点。全文ネタバレ・詳細レビュー / by abou el fida

IMDb 8.3 / 10  |  IN MOVIES 8.0 / 10|  108min|  2016年6月1日(水) 日本公開

新ヒーロー登場

この映画の何が楽しいのか。

今や、地球を守ってくれるヒーローたちの数や種類は飽和状態で、真新しさや刺激もマンネリ化している様相かと思います。そんな中、登場したデッドプール(デップー)は、地球の危機を救うハラハラ感や、悪を退治するカタルシスを与えてくれる訳ではなく、個人的な目的を果たすためにタクシーに乗って目的地に向かうような輩。ノリが今までとは明らかに異なります。スキップとハイタッチ、根アカで、やんちゃ、しかもセクシー。そんな彼が巻き起こす残酷な闘いシーンや、ストレートで野方図な性表現、内輪ジョークの連射で、貴方はすっかりデッドプールに心を奪われてしまうかもしれません。おげれつクマさん「テッド」の立ち位置にもかなり近いといえます。恋人がお姉様タイプというのも一緒だし。また、ヒーローがマスクを着けたら大抵は怒り目(アイアンマン、スパイダーマン...)になるところですが、デッドプールは怒り目、笑い目、ひょうきん目など、VFXを駆使した微妙な目の表情があるところにも親近感を感じさせる新しさです。


ライアン・レイノルズは、デッドプールそのものになった!

俳優の個性が、時として役柄そのものと同一化する奇跡があります。アイアンマンはロバート・ダウニー・Jrと同一であり、ジェイソン・ボーンがマット・デイモンと同一であるように、ライアン・レイノルズは、デッドプールそのもの、まさにはまり役です。

今後続編が作られる場合、いや、既に続編アナウンスは出ているのですが、ライアン・レイノルズ以外のデッドプールはもう考えられないでしょう。


 

R-15(15歳未満観覧制限 / Restricted - 15)

ヒーローものは少なくともR13 ( 13歳未満観覧制限)までが(集客を考えると)限界と思われていますが、デッドプールはR15 ( 15歳未満観覧制限)です。アイアンマンも、X-メンもアントマンも、R13どころか、観覧制限自体がないG=General Audience(全年齢の観客が観覧OK)で青少年にも優しい映画でした。もっとも、前述のテッドはR15ですから、ハリウッド全体で考えたら何を今更、、、とも言えますけれど。

というわけで、デッドプール成功の理由のひとつは、ヒーローものでありながら15歳未満の観客は切り捨ててもいいから、言いたいたい事をばんばん言っちゃうもんね。という製作側の心意気が伝わるからなのかもしれません。

 

愛は本当に盲目か?

もう一つ。この映画には「愛は本当に盲目なのか?」というテーマらしきものもあります。ウェイドの身体が焼けただれたホラームービーの様になってしまってもヴァネッサの愛は不変か?  ダークヒーローにありがちな、深くて興味深いテーマです。ウェイド=デッドプールも多いに悩みます。答えは映画でご確認いただくとして、ウェイドの恋人、ヴァネッサ・カーライルは原作ではコピーキャット(変身能力を持つミュータント)なはず。さて、続編ではどんな展開になるのでしょうか。



デッドプールをめぐる2つの話題。

パンセクシャル

「デッドプールはパンセクシャルである。」とはライアン・レイノルズ自身がインタビューで答えた言葉。マイリー・サイラスの発言などでも注目される単語「パンセクシャル」ですが、要は無ジェンダー、無性的指向で、かつ、非常に強い性的アイコンであると解釈できます。そこまで深い意味があるとはちょっと思えませんが、デッドプールのコスチュームは筋肉やお尻や、大切な場所など、あちこちの膨らみが微妙に誇張されており、その存在そのものがセクシャル・アイコンであることは間違いありません。

 

第四の壁を破る

第四の壁とは、観客と作品を隔てる壁のこと。(ウィキペディア
デッドプールのオリジナル・コミックでは、作品の中でデッドプールが読者に話しかけるシーンが度々あります。映画でもそのまま再現しているわけです。本来の意味での第四の壁を破るものか否かはさておき、観るものの共感を得る強制的な手段とも言えます。尚、映画では古くから日常的に使われている手法です。以下の動画は第四の壁を破るシーンを集めたもの。特に10:30付近をご覧ください!エンドロールでデッドプールが演じたのはこのシーンのパロディであり、第四の壁こわしてますよー。という主張ですね

映画にて第四の壁を破るシーン集。10:30付近注目!

デッドプールのテーマ・"Angel Of The Morning"(1981年)


俳優ライアン・レイノルズの復活映画「デッドプール」

ライアン・レイノルズはマーベルとDCコミックのヒーローものに3度目の登場となります。過去の2回はどちらも不評だったので、おそらく今回は誰も期待していない想定から、ある程度ふっきれた、やけっぱちともいえる演出が功を奏した結果となりました。
この映画で、デッドプールがXマンションに行った際、(映画製作の)予算が少ないため、X-メンのメンバーを二人しか登場させられなかった事をジョークにします。映画「デッドプール」はマーベル史上、前代未聞の低予算(デッドプールの製作費はおよそ60億円。例えば、最初のアイアンマンで150億、アイアンマン3、アベンジャーズ、X−メンシリーズは200億以上です!)と、短期間(たった48日間)の撮影で完成されたのです。中身の面白さは製作費に比例しない。場合によっては製作費が少ない方が凝縮された内容になるんだぞという好例作品になりました。

 

ウルヴァリンでのウェイド・ウィルソン

ウェイド・ウィルソンのフィギュア

ウェイド・ウィルソンのフィギュア

ライアン・レイノルズのヒーロー映画1度目の出演は「ウルヴァリン x-men zero」でのウェイド・ウィルソン。今回のデッドプールと同一人物で、口が達者な二刀流傭兵である事も同じですが、悪者として肉体改造された後の姿があまりにも醜く、しかも口を縫い合わされてしまう始末。

ヴァネッサに宝物であるワムのアナログレコード(WHAM! MAKE IT BIG)を見せる直前に、この「ウルヴァリン x-men zero」でのウェイド・ウィルソンのフィギュアが映ります。また、フランシスがウェイドにストレス処置を施している最中のシーンで「もちろん、口を縫い合わされるようなことはされたくないよな?」と言われたりしており、いかにウルヴァリンがトラウマになっているかがうかがえます。

 

グリーンランタン

グリーン・ランタンのライアン・レイノルズ

グリーン・ランタンのライアン・レイノルズ

2度目は2011年の「グリーンランタン」(こちらは、マーベルではなくDCコミックがオリジナル)。この映画では主演のライアン・レイノルズをトム・クルーズの様にしようという、まじめで検討外れな意気込みと、欲張り過ぎの内容で焦点が合わず、200億円以上もの予算でImdbの評価も5.6という惨憺たる結果になりました。この後、いったい誰がライアン・レイノルズにヒーローものの主演を期待するでしょうか?
ちなみに、勝手放題、冗談のような予算で、冗談ばかり連発して作ったデッドプールのIMDb評価は8.4。驚くべきことにジャンル問わず全映画の中でもトップクラスです。映画冒頭のストップモーションで、空中に飛んでいく財布からグリーンランタンの写真が「さようなら〜」と言わんばかりに抜け出ていくのをお見逃し無く。
(ライアン・レイノルズのアメコミ映画出演作には『ゴースト・エージェント/R.I.P.D.』もありますが、変装ヒーローものとはちょっと毛色が異なるので除外とします。)

なぜ、ライアン・レイノルズのヒーローは不評だったのか。

ライアン・レイノルズの出演作品はなぜ、不評が続いたのでしょう?もしかしたら、二枚目キャラクターなのにも関わらず、よく見ると目の間隔がちょっとだけ近すぎるのが原因かもしれません。雑誌では「最もセクシーな男」(後述します)とも呼ばれる彼ですが、目つきがジム・キャリーにも似ている気もします。ジム・キャリーといえばコメディー。これまでのライアン・レイノルズのイメージに、もっとコメディー要素を加えたのがデッドプールとも言えるのではないでしょうか。



微に入り細に入り:内輪ジョークの数々

治癒能力が発達した一方で精神に異常をきたし、制御不能となってしまった、、、というオリジナル・アメコミのストーリーは映画では採用されていません。そこまでは暴走せずに、愛と、悪ふざけと、仲間内ジョークに徹したアクション・ヒーロー。

愛と悪ふざけについては誰にでもわかりますが、仲間内ジョークを楽しむには知識が必要ですので少々紹介をしましょう。
なんだかわからないけど面白い。ではなく、きちんと理解して笑うと面白さ倍増ですから。

小細工な映像など

  • 「デッドプール」という名称は1988年クリントイーストウッドの映画「The Dead Pool」(邦題はダーティーハリー5)から命名。
  • ダーティーハリー5にはリーアム・ニーソンが出演しており、ライアン・レイノルズは映画の中で「リーアム・ニーソンの悪夢にうなされた」と言うセリフを言います。リーアム・ニーソンの「96時間 / Taken」3部作の話にも言及していますが、真意はダーティーハリーの方でしょう。
  • オープニングのストップモーションで映されるスタバのテイクアウト・カップには"Rob L" と記載されています。Rob Liefeld / ロブ・リーフェルドは、オリジナル・コミックのデッドプールの原作者(生みの親)です。
  • オープニングのストップモーションで映されるライアン・レイノルズが表紙の雑誌は実在します。表紙はライアン・レイノルズでタイトルは「Sexiest Man Alive / 最もセクシーな男が帰ってきた」ピープル誌です!
  • ウェイドが用心棒のアルバイト中、ストーカーがデリバリーしてきたピザの箱の横に"Feige's Favourites," と記載されています。Kevin Feige / ケヴィン・ファイギは、マーベル・スタジオの製作社長です。
  • ネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッドは、デッドプールに、「おぉぉ、エイリアン3のリプリー!」とか「シンニード・オコナー!」とかばかにされます。以下、画像のとおり、どのくらい似ているのか、坊主頭繋がりを再確認してみましょうか。
ネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッド

ネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッド

「エイリアン3」のリプリー。

「エイリアン3」のリプリー。

シンニード・オコーナー

シンニード・オコーナー


引用セリフ関係(オリジナル英語台詞を元に記載しています)

  • 映画冒頭、ハイウェイのガードレールにちょこんと座り、”Salt-N-Pepa”の「Shoop」(1993年のヒット曲。デッドプールがマーベル・コミックに初登場したのが1991年なので時代考証合ってます。)にノリノリでお絵描きの最中に第四の壁を破って言う言葉。「やぁ!みんな知ってると思うけど、このデッドプールの映画が実現するために、一仕事しなくちゃならなかった。「プールヴァリン / Poolverine」(本当は「ウルヴァリン / Wolverine」)でね。とオーストラリア訛りの英語で語ります(ウルヴァリンのヒュー・ジャックマンはオーストラリア人)。このセンテンスの中に「Down under」という単語も含まれますが、地図の中で赤道より下の方に描かれてしまう南半球のオーストラリアのことを俗語としてアメリカ人が「Down under」と呼んだりするのです。ライアン・レイノルズが出演して不評だった事を、とことんジョークにして、更にオーストラリアを小馬鹿にしているわけです。
  • ウェイドとヴァネッサの出会い、バーカウンターで幼少時代の惨めさを競いあった会話は、モンティパイソンの コント「The Four Yorkshiremen」へのオマージュです。英語のみですが、ご興味のある方は以下ページの第9位をご覧ください。

モンティパイソン・ベスト10/  Monty Python: 10 best sketches

  • デッドプールが言う「僕だって、ただの男の子。ひとりの女性の前に立って... / I'm just a boy, standing in front of a girl …」は「ノッティングヒルの恋人」から引用。(オリジナルは「私だって、ただの女の子よ。ひとりの男性の前に立って...」)
  • デッドプールが言う「親愛なるあなたの隣人、デップーちゃん / your friendly neighborhood pool guy」は、スパイダーマンの決め台詞「親愛なるあなたの隣人、スパイダーマン / your friendly neighborhood Spider-Man」から引用。
  • 友人でバーテンダーのウィーゼルが言う「彼女を取り戻してこい、タイガー / Go get her, Tiger」は、やはりスパイダーマンのメリージェーンのセリフからの引用。(オリジナルは「あいつらをやっつけてきて、タイガー / Go get them,Tiger」)
  • 冒頭のハイウェイのシーンでコロッサスがデッドプールに言う「生死にかかわらず連行する / Dead or alive your coming with me」は、ロボ・コップのセリフから引用。
  • バーでのウィーゼルとの会話「I wanted to meet new and interesting people」「And kill them」は「フルメタルジャケット」からの引用で、ライアン・レイノルズは「ウルヴァリン: X-MEN ZERO」でも同じセリフを言っています。オリジナルは「I wanted to meet interesting, stimulating people of a rich, ancient culture and kill them. I wanted to me the first kid on my block with a confirmed kill.」
  • 末期がんの告知を受けて悩んでいるウェイドに、ヒーロー育成の名刺を差し出すスカウト・マンに対して、デッドプールは「エージェント・スミス」と呼びます。これは、おそらくマトリックス・シリーズのエージェント・スミスからの引用でしょう。
  • 行きつけのバー「シスター・マーガレット」にて、デッドプールの友人でありバーテンダーのウィーゼルが、デッドプールを探しに来たフランシスとエンジェル・ダストへ の捨てゼリフ「深夜上映の"ブレード2"を楽しみな! / Have fun at the midnight screening of Blade II」は、映画「ブレード3」にはライアン・レイノルズが出演しているが、「ブレード2」には出演していない。つまり「見当違いの場所で人探しをしててご愁傷様」という意味なのです。このジョークを笑うためには、かなり退屈な映画である「ブレード」シリーズを知っていないといけないので、なかなか難易度が高いことと思います。