IMDb7.0・IN MOVIES 6.0・132min・2016年6月18日(土)日本公開
トム・ハーディの新たな挑戦
ある程度成功した俳優さんは、ある程度自分の役柄イメージが決まってしまいがちなので、今度はそれを打ち破るために新たなイメージの役柄に挑んでいくのが常です(ジョニー・デップ、ブラッド・ピット、エドワード・ノートン、、、)。しかしトム・ハーディは比較的最近の成功者でありながら既に役柄の幅が多彩で、今から打ち破る必要はあまりなさそうです。
現時点で代表作となる「マッドマックス怒りのデスロード」は、我々がイメージする(イメージしたい)トム・ハーディのストライク・ゾーンですので、今更語るまでもありませんが、つるっ禿げの「ブロンソン」、「ダークナイトライジング」のベインや「レベナント」のフィッツジェラルドが全て同じトム・ハーディであるという事に単純に驚きます。
一方、役柄の多彩さとは異なり、演技力の挑戦、自分自身への挑戦ともいえるトム・ハーディの作品、2013年の『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分/LOCKE』では上映時間86分のほぼ全編を車を運転しながら電話で話し続けるという一人芝居を見事にこなしています。こうなると映画としての良し悪しよりもトム・ハーディの役者根性や孤高性の方が目立ってきますが、今回の「レジェンド 狂気の美学」もそのタイプの映画なのです。
ロンドンの双子の伝説的ギャング、レジナルド(レジー)・クレイとロナルド(ロン)・クレイの実話。トム・ハーディの一人二役です。トム・ ハーディはこの映画のエグゼクティブ・プロデューサーとしてもクレジットされており、彼自身の気合の入れ様も伺え、何はともあれトム・ハーディづくしの映画です。
双子の外見上の区別は、眼鏡と鼻の形、口の中の詰め物と髪型、スーツがダブルかシングルかという程度ですが、トム・ハーディは性格が異なる二人を完璧に演じきっています。外見よりも演技力。両方ともトム・ハーディなのはもちろんわかるのですが、演じ分けが上手すぎて殴り合いの兄弟喧嘩も違和感が全然ありません。いかにもお芝居をしています、、、という様なわざとらしさはなく、まるで本当の双子、実際にちょっと違うトム・ハーディが二人存在する様に思えてくるほどです。
というわけで、「レジェンド 狂気の美学」は、トム・ハーディの役者としての新たな挑戦であり、その試みが十分成功している映画といえます。では、作品としてはどうでしょう?
トム・ハーディの新たな挑戦以外の見どころ
華々しいロンドン、音楽、印象的なシーン
イギリスとアメリカでなんとなく同時期の上映だったアメリカのギャングの実話映画、ジョニー・デップの「ブラック・スキャンダル」(ジョニー・デップが自分のそれまでのイメージを壊す目的もあった映画です)が徹底的に寒々しいボストンだったのに対し、こちらはロンドン特有の曇天の中でありながら、タキシードとセレブリティが集うクラブにシャンパン、ピカピカの高級車、華々しいファッションも楽しめます。「キャロル」での記憶も新しいカーター・バウエルによるUKソウル、UKジャズを中心とした音楽の選曲も楽しいし、地味ではありますが、時代を切り取った映像としても見応えがあります。
※「ブラック・スキャンダル」の上映はイギリスで2015年11月、アメリカで2015年9月でしたが、「レジェンド 狂気の美学」はイギリスが2015年9月、アメリカで2015年11月という意識的に競合しない上映タイミングでした。
前述のとおりトム・ハーディは見事な演技ですし、いくつかの印象的なシーン(オープニングで紅茶を持って見張りの警官を茶化しに行くコミカルなシーン、バーでのアクション映画さながらの迫真の立ち回り、シェイクスピア宜しく花束を胸元に入れて外壁を上って求婚するシーン。美しい結婚式場のシーンなどなど)もあります。しかし、映画としての後味はブラック・スキャンダルにも似て、全体的にどうもスカッとしないのが正直なところです。その理由は脚本です。
残念な脚本
テーマとも言える双子の血の絆は、妻フランシスが心が痛むほど純粋すぎてギャングの妻には到底無理という事を差し引いたとしても、レジーの妻に対する暴力の言い訳にはならず、悲惨でしかありません。ギャングスターとはそういう奴らなんだとはわかっていても、レジーとロンの双子がともにギャングである事を楽しむ姿には、人間として、男としての未熟さしか感じられないところが残念に思ってしまうのです。
パリッとしたスーツ姿のトム・ハーディは確かにクールでした。だから尚更、「ゴッドファーザー」とまでは言いませんが、もう少し行動原理を掘り下げて、ギャングならではの魅力も描いてほしかったところです。
何を求めてこの映画を観るかによって感想が分かれる事と思いますが、Imdbでの評価が7.0(可も無く不可も無くといった程度)なのもこのへんが原因です。
ギャング好きなトム・ハーディ
前述のとおり、トム・ハーディは、イギリスで最も有名な服役者と言われるマイケル・ピーターソンの実話を描いた「ブロンソン」(2008)にマイケル・ピーターソン役で出演していますが、「レジェンド 狂気の美学」の主人公レジー・クレイは服役中にそのマイケル・ピーターソンと実際に交友があったそうです。そんな二人(三人)を演じるトム・ハーディはきっとギャング好きなのですね。
セリフ・メモ
「Being patient doesn't get you what you want, does it?」
「我慢してても夢には近づけないだろ?」
「East Enders. They won't talk to a policeman, but they'll kiss a gangster.」
「見ろよ。この街の奴らは警官とは話したがらないが、ギャングにはキスをする。イーストエンダーズだな。」
イーストエンダーズEast EndersはBBCでで製作される連ドラ。1985年から続いている国民的ドラマです。
この2つは両方とも冒頭あたりのセリフです。映画の前半はよく作り込まれていてお洒落なのです!
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