IMDb 7.5・IN MOVIES 7.9・2017年1月21日(土)日本公開
アスペルガー症候群
ベン・アフレック扮するクリスチャンはアスペルガー症候群です。アスペルガー症候群の特徴は、知的障害ではない(知能の遅れはない)こと。社会的コミュニケーションが困難で狭い興味と反復行動を好むこと。IQは少なくとも平均以上であり、他人の情緒を理解することが苦手というものです。この映画の主人公は、まず前提としてそんな病気を患っているのです。
ベン・アフレックに感情移入してしまう理由
人は皆、多かれ少なかれ、奇妙な癖やこだわり、人に言えない習慣を持っているもので、我々がこの映画のベン・アフレックに感情移入してしまう理由は、そんな奇妙な癖やこだわりをアスペルガー症候群という病に置き換え、デフォルメしているからです。
欠陥がありながらもそれへの対処法を学び、手を抜かず、ひたむきに生きる姿に共感せざるをえません。彼は我々の心の裏側に住むダークヒーローなのです。
ベン・アフレックが、黒人の患者に義手を合わせるところを見ているシーンがあります。依頼人の会社のラボで、機械の指と人間の指がETしているポスターの前で、まるでポスターの中の一部のように佇んでいますが、彼が立つのは機械の指の方です。機械のごとき正確で早く、容赦ない人物である事のメタファーです。そんな彼がアナ・ケンドリックと触れ合うことで、人間的な血が通って行くさまもこの映画の見どころです。
アナ・ケンドリックをホテルに置いて行く瞬間、ドアを閉め、彼女の居る世界を、自らの手で閉ざす切なさ、自分の特異さ故、孤独を選ばなければいけない辛さはダークヒーローであるための運命です。ちなみに彼女へのメッセージに書かれた「You Deserve(君は価値がある)」 (日本語字幕でどのように訳されるかは不明)の意味、何に対して価値があるかは、ラスト・シーンで判明するのですが、この時既に決意していたとはなかなか憎い奴です。
ソロモン・グランディ
ベン・アフレック扮するクリスチャンが落ち着きを取り戻すための呪文のように繰り返し唱えるのが『ソロモン・グランディ』の歌詞です。ソロモン・グランディ はイギリス童謡、マザー・グースの唄のひとつで、その歌詞は人間の誕生から死までを一週間で表しています。歌詞を具体的に見てみましょう。
ソロモン・グランディ
月曜日に生まれて
火曜日に洗礼を受け
水曜日に結婚して嫁をもらい
木曜日に病気になった
金曜日に病気が悪くなり危篤
土曜日に死んだ
日曜日には埋められて墓の中
、、、ソロモン・グランディは一巻の終わり
人間の一生をとても客観的かつ冷淡にまで簡潔に表した、ちょっと奇怪な唄です。アスペルガー症候群におけるストレスに対抗するため、冷静で客観的な呪文を唱えるわけです。
加えて、ソロモングランディはバットマンと同様にDCコミックスの登場人物名であることも見逃せません。
Solomon Grundy / ソロモン・グランディ
自らの特異性、怪物性をソロモン・グランディになぞって、テーマ曲のように唱えているのかもしれませんね。ともあれ、同じDCコミックスの登場人物としてバットマンを演じるベン・アフレックとしては偶然では済まされません。
ルノワールとジャクソン・ポロック
時代が大きく隔たる二枚の絵画が出てきます。
・1874年、フランスの印象派ルノワールの「子供とパラソルの女性」
・1946年、アメリカ抽象画家ジャクソン・ポロックの「フリーフォーム」
クリスチャンはジャクソン・ポラックの方がお気に入りのようです。ポロックつながりの映画「エクスマキナ」についても是非ご参照ください。
エアストリーム / Airstream
武器庫、金庫、ルノワール、ポロック、ライト・セーバー、アメコミバックナンバーを保管する秘密のキャンピングカーはアメリカのエアストリーム社のもの。エアストリームは代官山の蔦屋でもおなじみですが、この映画で使われるのは2009〜2010年式の「Airstream PanAmerica」で、34フィート(10メートル以上)、3軸という巨大なもの。マニアも唸らす究極のキャンピングカーで、これを引っ張るために日常でも巨大な四駆に乗っているのです。
「3」にこだわる
- 三つの目玉焼き、三つのベーコン、三つのパンケーキ
- キッチンの引き出しには3本のカトラリーのみ
- 射撃のメロンも三つ
- 会社名(ZZZ Accounting)もZが三つ
- 赤と黒のペンは6本づつ。3の倍数
- 胸ポケットに刺すペンも3本
その他にもまだあるはずですので、探してみてください。
続編は?
監督はギャヴィン・オコナー。トム・ハーディとジョエル・エドガートンのボクシング映画「ウォーリアー」(2011年)で有名になりましたが、「男兄弟が敵として再会する」というプロットは「ザ・コンサルタント」も全く同じ。さて、続編は作られるでしょうか?楽しみです。