IMDB 7.8・IN MOVIES 7.3・「ジョン・ウィック:チャプター2」原題:John Wick: Chapter 2・2017年7月7日(金)日本公開
シンンプル&ハード・コア・アクション
「ジョン・ウィック」シリーズは全3部作。今作は「チャプター2」として最終章への橋渡し的な内容となります。監督のチャド・スタエルスキは元々「マトリックス」でキアヌ・リーブスのスタント役でした。根っからのアクション人間ですので、この映画もアクションのための映画、前作同様にシンプル&ハードコアです。
IN MOVIESでは少々斜めからの目線で、いくつかの面白い発見や見どころなどをご紹介します。ストーリーの核心には触れず、ただの薀蓄(うんちく)ですので、これから観られる方にも興味深いでしょう。
マトリックス同窓会
画像で見比べ
「マトリックス」へのオマージュか、それともただの遊び心か、映画の中ではマトリックスを彷彿させるシーンがいくつもあります。以下10枚の画像は左側が「マトリックス」シリーズからで、右側が「ジョン・ウィック:チャプター2」から。具体的な説明は画像の下で。
- 画像の上から1段目、左「マトリックス」:トレーニング・プログラムの中で、ネオ(キアヌ・リーブス)とモーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)以外の人々が停止するシーン。右「ジョン・ウィック:チャプター2」:ウィンストン(イアン・マクシェーン)とジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)以外の人々が停止するシーン。二人以外の人々がピタッと停止する。そのアイデアは全く同じです。
- 画像の上から2段目、左「マトリックス」:ローレンス・フィッシュバーンとキアヌ・リーブスの間に置かれた水が入った一個のコップ。水の量は八分目。右「ジョン・ウィック:チャプター2」:ローレンス・フィッシュバーンのオフィス(赤の調度品が目立ちますが、後述の「青と赤」もご参照ください)にて、やはり二人の間に置かれた一個のコップの水。水の量も八分目。まるで何かのお約束のように同じです。
- 上から3段目と4段目、左:マトリックスで活躍した「NOKIA 8110」(1996年発売)。右:「ジョン・ウィック:チャプター2」では「NOKIA 8800」(2005年発売)が使われているのです。地下鉄でバイオリンを弾く女性暗殺者やカシアン(コモン)も「NOKIA 8800」。ジョン・ウィック自身はiphoneを使用していますので時代は現代のはず。何故、みんなが古い携帯電話を使っているのでしょうか。暗殺組織はセキュリティの為に古い携帯電話で独自のネットワークを持つとも考えられます。が、敢えてスライド式のNOKIAが出てくると、どうしてもマトリックスを意識せざるを得ません。ちなみにNOKIA 8800は現在凄いプレミア価格で取引されているようです。
- 画像一番下の段。無機質な地下鉄のホーム。壁のライティングやキアヌ・リーブスの立ち位置、カメラ位置がほぼ同じ。ジョン・ウィックがそのまま仮想空間に入っていっても違和感ありません。
セリフも同窓会
- ビルの屋上のハト小屋でキアヌ・リーブスがローレンス・フィッシュバーンに言う言葉「お前には選択肢があるんじゃないかな / I guess you have a choice」は、その言い回しも含めてニヤリとさせられます。何故なら「you have a choice」はマトリックス・シリーズ全編のテーマとも言える言葉でしたから。
- もうひとつ、キアヌ・リーブスがローレンス・フィッシュバーンに言う言葉「I am the only one to help you」は、マトリックスでキアヌ・リーブスが「The One」と呼ばれていた事を思い出させます。
- こうなってくると、更にもう一つ。キアヌ・リーブスがローレンス・フィッシュバーンに言う言葉「We met many years ago」も「マトリックスからしばらくぶりだね」という意味も含んだダブル・ミーニングに違い有りません。
青と赤
マトリックスでローレンス・フィッシュバーンが「赤のカプセルを飲めば、本当の現実世界を見ることが出来る。青のカプセルを飲めば、いままでどおり仮想現実の世界で生き続ける。どちらを選ぶかは君次第…」と言っていました。それとの関係は不明ですが、「ジョン・ウィック:チャプター2」では青と赤がそこここで意図的に使用されています。以下画像以外にも探してみてください。前述のローレンス・フィッシュバーンのオフィスも赤ばっかりですし。
ローマ国立近代美術館
ジョン・ウィック:チャプター2は、ローマ国立近代美術館にて、実際の収蔵展示作品の前で撮影されています。その中でも以下の2作品にはなかなか深い意味が込められています。
石像:アントニオ・カノーヴァ / Antonio Canova作「ヘラクレスとリカス」
サンティーノ・ダントニオが背にするのは高さ3.5メートルもある巨大な大理石像、アントニオ・カノーヴァ / Antonio Canova作「ヘラクレスとリカス」です。この大理石像は人間の心の中のもっとも残酷な部分を表現したものと言われており、サンティーノ・ダントニオの行為とダブらせているわけです。
絵画:ジョヴァンニ・ファットーリ / Giovanni Fattori作「クストーザの戦い / The Battle of Custoza」(1880年)
再びサンティーノ・ダントニオが見恍れているのは、彼の父のコレクションだという、ジョヴァンニ・ファットーリ作の巨大な絵画「クストーザの戦い / The Battle of Custoza」(1880年)。ただの戦場の風景ですが、作者ジョヴァンニ・ファットーリはこう語っています。「最悪の動物は何だか知っているか。それは人間だ。なぜか。自己中心的で、いんちきで、裏切り者だ ー中略ー 善も悪も神次第なら、そのような神が実在するはずだとは私は信じない。私は長年希望を持って生きてきたが、失望のうちに終わりそうだ。」サンティーノ・ダントニオという最悪の人間像と呼応しているシーンなわけです。
ご参考までに、それぞれをもう少しはっきり見てみましょう。
他の映画にもオマージュ?
美術館とソムリエ
そういえばちょっと似てるよね、という程度でしかありませんが、先の絵画「クストーザの戦い」の美術館シーンは、007 スカイフォールのワン・シーンに似ています。以下画像上段、左が007、右がジョン・ウィック:チャプター2。また、銃のソムリエを訪ねるシーンはなんとなくキングスマンの趣もあります。
そうそう、美術館のシーンは「トーマスクラウン・アフェア」(ピアーズ・ブロスナンの方)でも印象的でした。アクション映画に美術館を登場させると、都会的で知的な雰囲気が加わるのでしょう。
話がそれますが、デビッド・フィンチャーが監督をしたドラマ・シリーズ「ハウス・オブ・カード」(シーズン1のエピソード1)にもあります。「絵画の前の二人を背後から撮影」シーン。
ブルーレイ4枚組、全13エピソードが入って3000円を切っています!(執筆時価格)。デビッド・フィンチャーが監督をしたのはエピソード1と2のみですが、そのためだけでも価値あります。パッケージをデビッド・フィンチャー完全監修というものもありますが、内容は上記と同じです。
ブルース・リー
ブルース・リー「燃えよドラゴン」の鏡の部屋とジョン・ウィック:チャプター2の鏡の部屋。こちらは、監督のチャド・スタエルスキが自らブルー・スリーへのオマージュなんだとネタバレしています。作品としてのオリジナリティよりも、純粋にアクション映画を撮りたかった男の子の気持ちなんだな、ブルース・リーも大好きなんだな、ということがよくわかります。
「PAY DAY 2」クロス・プロモーション
co-op(他人と協力しながらプレイできる)アクション・ゲーム「PAYDAY 2」。このゲームの中にジョン・ウィックが登場するそうで、いわゆるクロス・プロモーションとなります。映画の中ではピエロマスクの男がちらっと映りますので探してみてください。
敗者の美学
敗者達にもそれなりの華を与えることによって、組織に属すプロとしてのハード・ボイルドさが浮き彫りにいなっています。
ジアナ(今回の悪役サンティーノの姉)は自分を暗殺するためにジョン・ウイックが現れたとき、じたばたせずに冷静に自害を選んだし、元々ジョン・ウイックの同僚だったカシアン(コモン:以下参照)やアレス(サンティーノの側近、女性ボディーガード)は自分の身体にナイフを突き刺されても薄ら笑いこそ浮かべますが、敗北の無念さは感じられません。やはり冷静に自分の終わりの時を受け入れます。サンティーノ・ダントニオについてはジョヴァンニ・ファットーリの絵画に自分自身を感じると発言しており、つまり「私は長年希望を持って生きてきたが、失望のうちに終わりそうだ」という、敗北の予感がありながらも血塗られた道を進んでしまう、という半端者な悪者ならではの最期の覚悟=美学を持っているのです。
このへんの演出がこの映画のハード・コアさ加減を更に強めているわけです。
コモン / Common
実は1992年デビューのヒップ・ホップ・アーティストでもあります。俳優業は2006年から。ウィル・スミス、アイス・キューブ等々、ヒップ・ホップ系ミュージシャンの方は俳優さんとしても非常に優れているようです。
本作ではジョン・ウィックと同じ立場の凄腕ヒットマンとして、闘うときは徹底的に、しかしホテルのバーでジョン・ウィックと語る余裕というか、プロ同士の互いのリスペクトもちゃんと感じられる良い演技でした。以下は2000年にリリースされたコモンの傑作アルバム。
次回最終章!
今回のラスト・シーンは、そのままチャプター3の冒頭に続く事でしょう。ジョン・ウィックは1作目で全てを失いましたが、チャプター2で更に孤独な存在となってしまいました。伝説そのままの最強ヒットマンでありながらも、過去の思い出と、愛犬以外に拠り所がない男。最終章では全世界の殺し屋と対決です。「マトリックス」でネオ1人が、がおびただしい人数のスミスと闘うシーンを思い出してしまいます。
熟年ヒーローはいろいろな意味で人生に疲れたりして、孤高な存在になりがちです。しかし、孤高になるとは、己の筋を通しているということで、その姿はたとえボロボロになっても、波に洗われた流木のごとく美しく、年期の入った屈強さがとても魅力的なのです。
キアヌ・リーブスはその独特な演技やセリフまわしで大根役者と呼ばれてしまう事もありますが、それも全部ひっくるめて屈強な個性です。シンプルで、ハード・コアで、孤高のジョン・ウィック・シリーズは彼の代表作の一つとなりました。